【開幕特別インタビュー】サンガの新たな指揮官、ポポヴィッチ監督が語る“新生サンガ”
2026/8/7| トップチーム
「プレー強度の高さを引き継ぎ、知性を加えてチームを作っていく」
京都サンガF.C.は、5年半に渡ってタクトを振るって、2025年シーズンにクラブ史上最高のJ1リーグ3位の成績を収めた曺 貴裁(チョウ・ギジェ)監督が退任。2026/27シーズンを戦うにあたり、日本での監督経験が豊富なランコ・ポポヴィッチを新たな指揮官に迎えた。Jリーグがこれまでの春〜秋制から、秋〜春制へとシーズンを移行して新たなフェーズに入っていくのと同じく、サンガもここから次の時代を築いていく。東欧出身で、Jリーグではこれまでに延べ6チームを率いてきた新監督は、“新生サンガ”をどう作っていくのか──。
「チームワークを強調して、全員がチームのために戦う。 それこそが、我々のストロングポイント」
サンガから監督就任のオファーを受けた際の気持ちを聞かせてください。
とても光栄でしたし、また日本に帰ってくるチャンスをいただけたことが、非常に嬉しかったですね。私は2006年に初めて日本に来て、そこから数えると今年はちょうど20年目の年なんです。
サンガに関しては私はチョウさんとはとても良い関係で、これまでのサンガのサッカーを興味深く見てきました。スタッフの面々ではGMの大熊(清)さんとはFC東京からの仲で、強化部長のアンちゃん(安藤 淳)は、セレッソ大阪で監督と選手の関係で一緒にやっていました。そういう昔の仲間たちからオファーをいただき、とても嬉しかったです。監督就任のオファーをいただいた際は、サンガでなにかを成し遂げてやろうという大きなモチベーションと、幸せな気持ちでいっぱいでしたね。
サンガというクラブ自体も、私が最初に日本に来た20年前と大きく変わっていて、スタジアムも新しくなった。あのとても素晴らしいサンガスタジアム by KYOCERAで指揮を執れることを、とても楽しみにしています。
監督就任のオファーを受託するにあたって、決め手になったことは?
理由としてふたつあって、まずひとつは、私はやっぱり日本で働くのが自分に合っていると思ったこと。もうひとつは、私にとっては大きなチャレンジになると思ったことです。なぜチャレンジなのかというと、サンガは前任者の監督が5年半も率いてチームを作り上げました。長い期間にわたって指揮を執った監督が去ったあとに、また新たなチームを作るのは簡単な仕事ではありません。私は生まれながらの挑戦者ですし、人生では常にチャレンジしていくことが必要だと考えています。サンガで新たなことにチャレンジできる。それは私の挑戦者精神を、大いにかき立てましたね。
最初に日本に来られた20年前よりも、Jリーグは進化や成長を遂げていると思います。今のJリーグに対しては、どんな印象を持っていますか?
Jリーグで素晴らしいと思っているのは、全体がオーガナイズされているところ。そしてプレーのレベルも高いことが、Jリーグの魅力だと思っています。ほかの国からはそれほど注目されていないであろう細かな部分も、私は日本に住んで複数のチームで監督として関わってきましたので、Jリーグの素晴らしさをたくさん知っています。
15年ほど前に日本のサッカーについて、こういう話をしました。「2025年や2026年には、日本は世界のトップ5に入るくらいの実力をつけているだろう」と。当時はみんなが「えっ!?」と怪訝な顔で私の話を聞いていましたが、今では日本代表が世界でトップ5に入る力があると示していると思いませんか?私は15年前から、日本サッカーが持つポテンシャルやクオリティの高さを、はっきりと感じ取っていました。それをしっかりと育てて、伸ばしていくことができれば、世界でトップ争いができると。そのとおりに日本サッカーは右肩上がりに成長していると思いますし、それと歩調を合わせてJリーグのレベルも高くなっています。これらは、本当に素晴らしいことです。
曺 貴裁監督が率いてたころのサンガについてはどんな印象でしたか?
チョウさんには、とても敬意を持っています。ハードワークできる指導者で、選手に高い要求をしますが、自分にも厳しい。そこは、私と似ている部分があると思います。サッカーのスタイルに関しては私には私の、チョウさんにはチョウさんのスタイルがある。だから単純に、チョウさんがいたときのサンガと、私がこれから率いるサンガを同じものとして比べてほしくはありません。チョウさんはいい仕事をされて、いいチームを作られました。それについては、いい印象しかありませんね。
曺 貴裁監督が5年半をかけて作ってきたチームで、ここは変えるべきではないと感じているところは?
まずは、先に言っておきたいことがあります。一夜にして全てが上手くいくわけではないことをファン、サポーターのみなさん、クラブにも理解してほしい。チョウさんが5年半かけて作ってきたものを、わずか5週間で作り替えられるはずがありません。チョウさんが作ってきたチームと、これから私が作っていくチームを最初から比べるのは、まったくフェアではないと思っています。
チョウさんの日々の積み重ねが、5年目にリーグ戦を3位で終えるという結果を運んできました。もちろん我々も成功を目指しますが、そこまでの時間をかけるつもりはありません。結果を出すにあたってのスピード感は当然のことながら求めますし、一日も早くと考えながら仕事をしていきます。
そのうえで、チョウさんのサッカーで我々が引き継いでいきたいのは、やはりプレーのインテンシティの高さですね。ほかにも果敢にデュエルする姿勢や、勝負にこだわる、何事も徹底するところも引き継いでいかなければいけない。選手たちは日々ハードワークをしてくれていますし、真剣に新しいことを吸収しようとする姿をピッチで見せてくれています。この姿勢を継続していければ、全く問題はないでしょう。
7月の新体制発表会で、「インテンシティの高さを引き継ぎながら、インテリジェンスを加えたサッカーをしていく」といった旨の発言をされました。具体的に、どのようなサッカーを目指していますか?
よりクリエイティブなチームが相手との違いを作り、それが勝利に繋がるのです。相手よりも早く良い判断ができればアドバンテージになりますし、逆に相手にそこで上回られれば不利になる。アドバンテージを得るためには、ただただ走るだけではなく、頭を使ってプレーしないといけない。チョウさんが築いたインテンシティの高さに、考えてプレーすることを加えていきたいと考えています。
今お話ししていただいたことを含めて、今季のサンガはどういったところをストロングポイントにして戦っていこうと考えていますか?
コレクティブ、つまりはチームワークを強調して、チーム全員で戦うこと。やはりそれこそが、我々のストロングポイントにするべきところだと考えています。全員がチームのことを第一に考えて、チームのために戦う。それを念頭において個々が真剣に戦い続けていき、チーム全体が高まっていく。そういう考え方で、シーズンを戦っていきます。
「選手たちはハングリーで、全員がもっと成長したい思いで取り組んでいる。 そんな者たちの集団であることに、良い手応えを感じている」
就任されてからここまでで、チームに良い手応えを感じているところは?
私は厳しい監督で、選手に対する要求も高いです。選手はそれに決して負けて欲しくないですし、常に成長できるチャンスはあります。彼ら自身に、もっと伸びしろはある。そういう目で選手たちを見て、実際にアプローチしています。それに我々の選手たちは良い意味でハングリーで、全員がもっと成長したいと意欲的に取り組んでいる。そんな者たちの集団であることに、良い手応えを感じていますね。
就任からまだわずかですが、チームを指導してきて、ポジティブな意味で予想外だったことはありましたか?
色々と良い面を見てきていますが、良い意味でサプライズだったのは選手の真面目さ、勤勉さ。これは私がこれまで指揮してきたどのチームよりも、長けているところです。選手が私の言っていることを理解してくれているか、伝わっているかはすごく大切。私が一方的に話しているだけでは、なにも意味がありませんから。幸いにもそんなことはなく、選手たちは私の言葉に反応してくれて、それを体現してくれています。もしそうでなければ、もっともっと厳しいことを言わないといけませんが、我々の選手たちにそんな心配は無用です。
選手たちに強調して伝えている言葉などはありますか?
たくさんあります。でも私が最も重要だと思っているのは、全てのことが上手く運んで、最後に「ブラボー」と言えること。もしかすると、それが一番重要な言葉かもしれません。この言葉は、今シーズンを戦ううえでのキーワードにもなると思います。シーズンの最後の試合が終わった後に、みんなと笑顔で「ブラボー!」と言いたいですね。
チームのどのような姿をサポーターに見せてくれますか?
もちろん全ての試合で勝利を目指し、勝った姿を見せることが大事なのは理解しています。ですがシーズンで全勝することは、現実的ではありません。結果的に試合に負けたとしても、サポーターのみなさんに「よくやった」と拍手されるようなチームでありたい。そんな拍手をいただくために、どの試合も自分たちに言い訳できないくらい、全ての力を出し尽くす。そういった姿ですね。100%の力を出し切れば勝ち負けに関わらず、サポーターのみなさんも必ずそれを感じ取ってくれるはずです。みなさんの心を打つような姿を、ピッチの中でしっかりと見せていきたいと思います。
今シーズンはJ1リーグをはじめルヴァンカップ、天皇杯、それにアジアチャンピオンズリーグELITEと4つの大会に出場します。シーズンの最後に「ブラボー」と言うためには、どのようなことが大事でしょうか?
4つの大会の中には長距離移動があって、時差がある場所に行くこともありますので、とてもタフなシーズンになることは間違いありません。だからこそ、しっかりと良いバランスを取りながら戦っていかなければいけませんし、どの試合も全力を尽くして戦い抜く覚悟を持って臨むことが大切だと思います。
それと同時に、4つの大会に参加できることに幸せを感じながら、やっていかなければいけない。我々にとっては大舞台で戦える機会があるという、恵まれた状況でもあるわけですから。その感謝の気持ちをピッチ上のプレーで表現して、そのうえで自分たちが置かれた状況や、プレーそのものを楽しむことを忘れずに戦いたいと思います。
「サポーターの愛が強いチームほど、結果を残している。 ともに戦い、一緒に良い結果をつかみ取ろう!」
ところで京都で暮らされてみて、京都の街の印象はいかがですか?
今は時間がなくて、観光したり街を歩くということが、ほとんどできていないんですよ。今シーズンは4つの大会に参加しますので、この先のスケジュールを見ると、いつそんな時間が取れるんだろうと……(笑)。ですが京都には知り合いや昔の仕事仲間もいますし、ほかのチームの指揮をしていたときに家族で来たこともあります。だからまずはサンガで良い結果を出してから、京都の街のことについてもっと詳しく話をさせてください。
ただそのような中でも京都の街を歩くと、「ポポさん」と声を掛けてくれるサポーターの方や地域の方々がいらっしゃいます。それはとてもありがたいことで、私はそういうコミュニケーションが好きなんですよ。みなさんが掛けてくれる声が、私にとってはエネルギーになるんです。
私はサッカーは人生そのものだという話を、選手たちにもよくします。人と人の関係をチームという世界に置き換えると、相手との距離を縮め、みんなでコミュニケーションを図っていき、それをエネルギーに転換していくのは、すごく大切なことです。だから私にとって京都のみなさんや、チームの仲間とコミュニケーションを図れるのは、幸せなことなんです。
時間ができたら、京都で行ってみたい場所は?
私は元々お寺や神社を巡るのが好きで、東京に住んでいたころは明治神宮によく行きました。京都でも、お寺や神社参りをしてみたいですね。私はクリスチャンで仏教徒ではありませんが、信仰深い家庭に生まれたので、教会だけではなくお寺や神社にもよく行きます。自分にエネルギーを与えてくれたり、心が落ち着く場所でもあるんです。清水寺や八坂神社など、京都にはそういった場所がたくさんあるので、時間ができればぜひ色々なところへ行きたいです。
最後に今シーズンをともに戦ってくれるサポーターのみなさんに、監督からメッセージをお願いします。
他のクラブもそうですが、サポーターの力が強いチームほど結果を出しています。みなさんの力と言いましたが、それは愛情の大きさにも置き換えられ、クラブの結果に反映されている。私は、そう思っています。ですからみなさんには、たくさんの愛情をチームに注いでいただきたい。私たちはみなさんから受け取った愛情をパワーにして、全力で試合に臨みます。
そうして共に戦い、一緒に良い結果を掴みとりましょう!
取材日:2026年7月31日
聞き手:カワサキ マサシ